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目指すべき技術者の理想像は東北大の目指すべき研究者・エンジニアの理想像を大いに参考にしています。精神構造についても触れられており、哲学にハマっている私にとってはまさに “バイブル” なページです。
ハードウェアエンジニアの憂鬱
ハードウェアのスキルは数ヶ月独学で……のように身に付けられるものではないと思っています。設計開発などの実務はもちろんのこと、時には障害解析(市場問題)などで原理原則まで踏み入ってはじめて身に付けられるものだと思っています。1 そのためソフトウェア分野と比較して、ハードウェア分野は1つの技術領域に長く浸かることになります。十数年のキャリアの中で特定の分野しか実務経験が無いという人も少なくありません。
例えば私は大規模な精密機器の設計部門に所属していますが、ある特定のモジュールを切り取ったとしても、更にその中でセンシング回路、レーザー制御回路、モータ駆動回路、CPU周辺回路……などの単位で専門のチームや部署が存在します。それぞれの技術領域も深く、十数年単位で深化させていくイメージがあります。
これからの世の中は時代の変化に合わせて自分を変えていける人が生き残ると言われます。組織に所属し続けて守ってもらうより、どこでも通用するように自分のスキルを上げていくことが一番のリスクヘッジになります。そのためいつでも会社の外に出られる準備をしておくよう心掛けていますが、転職活動をしていてつくづく思うのが応募可能なポジションが極端に少ないなという点です。エンジニアとしてのベーススキルは持っているものの、MUST要件と実務経験がジャストミートしないのです。会社に魅力を感じて自分の技術領域とマッチしそうなポジションを見つけても、MUST要件の最後の方に「高周波回路のこの分野の実務経験が3年以上」などと書いてあったりします。今のスキルがそのまま活かせる同業他社に移る人が多いのも頷けます。
唯一、ハードウェアエンジニアとして気に入っている点があります。それはハードウェアの技術領域は電気電子工学の物理現象がベースになっているという点です。よほどのブレイクスルーが無い限り、身に付けた技術が陳腐化するリスクは低いと言えます。2 またある程度、他の技術領域にも転用可能です。なので私が目指す技術者のキャリアは、複数の技術領域を渡り歩きつつも、その根本にある物理現象 及び エレクトロニクス分野の知見を深化させていく、というものです。
(*1) 市場問題の障害解析では直接原因と根本原因、暫定対策と恒久対策の効果 及び 副作用を第三者が納得可能なレベルで提示する必要があり、現象の深い理解が必要になります。私の会社では抵抗を1つ追加するだけであっても、部署長や関連するテーマPMに対するいくつもの決済会議を通す必要があり、高負荷なプレッシャーの中で物理現象を説明できなければなりません。
(*2) 物理現象がひっくり返ることはありませんが、例えばNTTはオールフォトニクス技術の実用化を目指しているようです。これは端末間すべてにフォトニクス(光)の技術を導入するもので、現在のエレクトロニクス(電子)の技術とは設計に対する考え方が全く異なると考えられます。ただしこういったブレイクスルーが起きたとしても、電磁気学として光-電子は繋がっています。
ゼネラリストとスペシャリストのどちらを目指すべきだろうか?
結論から言うとゼロイチで決めるのではなく、大きな流れの中に身を委ねつつも、軸足はスペシャリスト側に置いておくのが良さそうだ、と考えています。
そもそも何故この問いを立てたかと言うと、生々しい話ですが転職面接や社内のキャリア面談でよく聞かれたためです。これには本当に悩まされました。と言うのも、私は物理学もエレクトロニクスもソフトウェアもそれなりにできることが強みだと思っているので、 “狭く深く” よりも “広く浅く” の方が性に合っていると認識しているためです。しかし上述した通り、これからの世の中は時代の変化に合わせて自分を変えていける人が生き残ると言われます。VUCAな世の中への適応力が必要となります。そのためその時々の状況に合わせて環境を変えるために転職を繰り返すことも想定しています。
そうなると市場価値があるのは圧倒的な専門性を持ったスペシャリストです。外資系はもちろん、ジョブ型雇用が進む日本社会でもスペシャリストが求められる世の中へと進んでいます。例えば。目指すべき研究者・エンジニアの理想像でも以下のようにスペシャリストの重要性が説かれています。
一般社会において、研究開発を担う人材として、先端分野を開拓するスペシャリストと、幅広い分野を結集してソリューションを見いだすジェネラリストの双方が必要です。その場合でも、乗り越えるべき問題に解決の糸口を最初に見つけるのはスペシャリストのため、その役割は特に重要です。技術が高度に専門化した現代科学において、大局的な観点から様々な技術を組み合わせて最適化するジェネラリストの役割も増していますが、多様な専門性を有するスペシャリストが多く結集してこそ、インパクトを伴うモノ作りやサービス提供が可能になります。課題克服の障壁が厚くて高いほど、誰も思い付かなかった大胆な発想や技術でチャレンジするか、堅固な専門性をドリルにして、蟻の一穴や風穴を開けてつき崩していかなければなりません。
top (2023/08/12アクセス)
従って、私は大きな流れの中に身を委ねつつも、軸足はスペシャリスト側に置いておくのが良さそうだ、と考えています。ゼネラリストとして名を馳せている方を見ても、キャリアを見るとある分野のスペシャリストであることが多いですよね。なのでゼネラリストの定義は「何らかの分野のスペシャリストであること。もしくはあったこと。」だとも考えています。
自分語り
ここまでさんざん技術者としてのキャリア論を述べてきましたが、私は技術のような知的生産労働に向いていないと思っています。メーカーのように納期が厳しく設定された仕事については特にそう思います。繁忙期は苦痛を残業時間で引き伸ばされるためです。
物理学もエレクトロニクスもソフトウェアも好きですが、それなりに努力をしないと一定の水準まで到達できないことを認識しています。1年目の成果発表や特許活動で新人賞を貰ったこともありましたがこれも過去の栄光で、そこれそ好きだったゲームなどを封印してひたすらエレクトロニクス分野の研鑽に勤しんでいました。そしてのその “努力” には結構な苦痛が伴っていたと思います。
正しい方向の努力は裏切らないとよく言いますが、学生時代から “努力の方向” を見極めるのは得意でした。持ち前のコミュニケーション能力と恵まれた友人関係も手伝って、出席数あたりの単位取得数は群を抜いていたと思っています。ただ、頭を使うことは手段であって楽しさは感じませんでした。また高校受験の頃から脳の出力が別次元な人間がいることをひしひしと感じていました。この分野で戦うことは筋が悪いだろうという思いを引きずりながら、ずりずりと大学院まで進んで大手メーカーに就職していました。入社して10年目、順当に上位職となりましたが少し手を抜くとアウトプットがガタッと落ちるので、成果を維持することに正直うんざりしています。
ただし上記の考え方は競争社会に縛られた当時の私の考え方です。競争に対する在り方については別記事でじっくり書きたいと思います。
話を戻して、なら自分には何が向いているのかと言われたら、色んな意味で恥ずかしいですが “芸術” だと思っています。私の記憶や周囲から聞いた話だと、小さい頃から “ 絵を描くこと ” には爆発的なセンスを発揮していたと思います。ここで大事なのが、絵を描いているときには退屈や義務感といった苦痛を全く感じないということです。幼稚園児の頃から大学入学まで「なぜ周りの皆はこんな簡単なことができないのだろう?」と本気で不思議に思っていました。
私も親になって分かるのですが、周りの大人は子どもをおだてます。なのでセンスについてより客観的な評価が必要です。思い返すと、例えば鎌倉市主催の鎌倉大仏写生大会に参加したことがありました。当時5年生の私はGBのドラクエモンスターズにハマっており、一刻も早く描き上げて異国マスターから “ようがんまじん” を奪う必要がありました。そのため10分で適当に仕上げたましたが、その作品が鎌倉市の最優秀作品に選ばれ、小町通り前の地下道に半年間飾られたことがありました。また高校時代は美術選択だったのですが、提出課題の写生において、ガラス瓶の向こう側に写ったオレンジの描き方が上手すぎるということで、その場で確定の “5” 評価をもらったことがありました。インパクトのある噂になったため、当時は悪い友達がいたもので、提出物の手伝いをすることを条件に好きだった女の子にアプローチしてもらったこともありました。
自分語りが過ぎましたが、将来は芸術分野で生きることを考えています。それが技術者として世の中に貢献し終えた後の余生となるのか、それとも30代のうちから転身するのかは見えていません。ただ、その分野の方が世の中に価値を与えられるだろうと思って仕方ないのです。
- 市場問題の障害解析では直接原因と根本原因、暫定対策と恒久対策の効果 及び 副作用を第三者が納得可能なレベルで提示する必要があり、現象の深い理解が必要になります。私の会社では抵抗を1つ追加するだけであっても、部署長や関連するテーマPMに対するいくつもの決済会議を通す必要があり、高負荷なプレッシャーの中で物理現象を説明できなければなりません。 ↩︎
- 物理現象がひっくり返ることはありませんが、例えばNTTはオールフォトニクス技術の実用化を目指しているようです。これは端末間すべてにフォトニクス(光)の技術を導入するもので、現在のエレクトロニクス(電子)の技術とは設計に対する考え方が全く異なると考えられます。ただしこういったブレイクスルーが起きたとしても、物理現象(電磁気学)として光-電子は繋がっています。 ↩︎